2月定例研修会報告

 

【日 時】202029日(日)9:3013:00

【場 所】宇多津町保健センター2階 第12会議室

【テーマ】過去の痛みを忘れない。今の痛みを見過ごさない。

        個人の痛みを社会化し、繰り返させない。

       ~社会的復権を担うと宣言した唯一の職種「PSW」~

【講師】大阪人間科学大学 吉池 毅志氏

【参加者数】27

 

 

  研修報告

皆さんは、“社会的復権”と聞いてどういうイメージがあるだろうか。難しいことであるとか、日々の業務に追われてそれどころではないと思われている方もいるのではないだろうか。今回の研修では、大阪人間科学大学の吉池氏をお招きし、“社会的復権”について講義して頂いた。

吉池氏が社会的復権や人権擁護に動き出す前に、“痛み”との出会いがあったとのこと。学生の頃、1987年の札幌母親餓死事件に痛みを感じ、生活保護ケースワーカーを目指した。また、PSWとして精神科病院で働き始めてからは、同期の仲間と悩みを話し、先輩PSWやスーパーバイザーからのアドバイスを受けることで痛みを分かち合った。そして、あるシンポジウムで、当事者がかつて受けた痛みの話をされた。吉池氏はそれに大きなショックを受け、看護部長に相談したところ、『外からの力』が必要であると教えられたと言う。PSWとして働く中で所属機関の要望にも答えなければならないことが出てきたり、“限界”が出てくる。そこで、『外からの力』が必要になってくるのだ。そして、吉池氏は立ち上がり、所属機関外の権利擁護活動に取り組みはじめた。その活動の一つとして、個人として電話相談を受けていた時、多くの人は痛みの最中では、声をあげられない、ということに気付く。最中では、これ以上ひどくならないように、怖いから、など声をあげられない状況におり、退院や別の場所に移り、落ち着きを取り戻すことが出来てからでないと、訴えることが出来ないのだ。そして、大和川病院の報道などの痛みを受け、病院訪問活動へと動き出す。最中にいる人たちに対し、話を聞いていく。これは、閉鎖的な場所で、虐待も起こりやすく、人権問題が隠蔽されやすい精神科病院の風通しを良くし、抑止力にもなり得る。実際、吉池氏が丁寧に環境を作り、関係性を築くことで、当事者の方たちから様々な声を聞くことができた。この様にPSWが外に出て活動することで、色々な可能性が出てくるのだと教えてくださった。そして何より、痛みを感じることが社会的復権、権利擁護への原動力となるのである。

痛みを感じること、その次に考えることは、その痛みを忘れてしまっていないか、その痛みを感じなくなってしまっていないか、ということだ。皆それぞれ痛みやそれと同じような想いを抱いてPSWになっているであろうと思われる。しかし、日々の業務に追われたり、周りの環境などでその痛みや想いを忘れてしまっていないだろうか。当事者の近くに居るはずの支援者が傍観者になってしまってはいないだろうか。そして、今ある場所や見える景色が当たり前になってしまうことで痛みを感じなくさせてしまっていないだろうか。例えば、医療保護入院は例外的な最終手段とし、常態化されるべきではない。そして、長期入院にしても「退院できません」と繰り返し伝えられ、「退院できない」と思い込んでしまった上に現状があることを理解しないといけない。見慣れすぎた景色を正すには、まだ見ぬ景色を描くこと、見知らぬ景色を見に行くことだと吉池氏は言う。そこで、『精神保健福祉士は精神障害者当事者の期待に応えてきたのだろうか』との問いを投げかけた。社会的復権や権利擁護とは当事者のためのものであり、当事者の声や想いを知らなければ始まらない。私たちは、その声に耳を傾けられているだろうか。また、その想いが届く場所に身を置けているのだろうか。その声に耳を傾け、想いに寄り添うことで痛みを感じ、思い出してほしい。

痛みを感じ、それを社会化していくことが社会的復権へと繋がる。その社会化のために必要なものが3つあると吉池氏は話した。一つ目は、『循環的関係』である。これは、当事者とPSWとの循環的関係がある。当事者の苦悩や痛みをPSWへ伝え、PSWはそれに共鳴し、社会的復権へと繋げる。また、その循環には、理想と現実との狭間でゆらぎ続けることのできる力と、価値やピアの力などのゆらがない力が必要であるとのこと。そして二つ目は『協働』である。痛みを受け取ったとしても、一人で社会化へと繋げるのは極めて困難なことである。しかし、「こういうことを繰り返してはいけない」と共鳴できる協働者を掘り起こし、協働することで、社会化へと繋げていくことができる。最後に『エネルギー』である。社会化へと動き出すためにはエネルギーが必要である。当事者や協働者との痛みの共鳴が力となり、痛みを一所に留めず、当事者からPSWへ、協働者へ、社会化へと繋げることがエンジンとなり、動いていくとのことであった。

社会的復権を叶えるためには社会変革が必要となってくる。社会変革のためには、様々な物を見て、聴いて、話す。そして、行動する。これには一人で行えるものはない。先駆者がいるから見ることができ、当事者や仲間がいるから痛みや苦悩を聴くことができ、話すことができる。やはりソーシャルワークとは個々で出来る事は限られていて、誰かに繋がり、誰かに繋げ、ソーシャライズしていくことなのである。そして、社会変革が起こり、社会的復権が叶うと祈る。理念、価値、理想を掲げ、PSWとして働いていくことでぶれない頂上へと向かい続けることができる。「理想論だ」と揶揄する人も居るだろう。しかし、私たちPSWは理想と現実の狭間で揺れ動きながらも理想を目指し、頂上へ向かっていくことが使命なのだ。

最初にも書いたように、“社会的復権”この言葉だけ聞いてしまうと難しいと思われる方も沢山いるだろう。しかし、当事者個人の対応をしていくことで、痛みに触れることがある。その痛みに寄り添い、共感するだけでは繰り返し同じことが起こることにいつか気付く。それに気付いたとき、動き出す。そう聞けば、何ら特別なことでもないとも思える。必要なのは仲間、協働者である。同じ痛みを抱えている人は沢山いる。痛みを一所に留めてしまわない為にも繋がりを求め続け、痛み分けをしていきませんか。

 

報告 大杉 真央(大西病院)