7月定例研修会報告

 

【日  時】  2021年7月2日(金) 19:00~21:00

【テ ー マ】   課題別研修Ⅰ 『ソーシャルワーク実践における対話力を熟思する』

【講  師】  岡崎 貴音 氏(高松大学 学生学修支援室)

【参加者数】  21名

 

 

●研修報告

 私たちMHSWの最大の武器はかかわりであることは基本だが、そのかかわりを形成するための多くは言葉によるやりとりである。日頃から何気なくおこなっている会話はもちろんだが、今回は『対話』に焦点を当て、高松大学 岡崎 貴音氏にご講演いただいた。

 

 そもそも、私たちMHSWが日々の業務から対話について考えた際、その対象はクライエントのみという考えはないだろうか。私たちは横のつながりをも大切にする専門職であるため、クライエントだけではなく、所属機関や関係機関に対しての対話も大切にしなければならない。その上で、適した表現方法・態度・姿勢が必要である。そして、それらの対象に共通するのが、「相手と信頼関係を構築し、よりよい支援を目指す」ということだ。「よりよい支援」のために、お互いの思いや目的・方向が一致している必要があるが、そのためには相手の話をよく聴き、こちらの考えや想いを適切に伝えていくことが求められる。

さて、「相手の話をよく聴く」とは、『聴く』『観察する』『伝える』という3つの要素が含まれているが、自分の日頃のかかわりを振り返って、どれくらいできているだろうか。『聴く』においては、過去の自分の経験から、理解をする前にパターン化していないか。自分の都合のいいように解釈しようとしていないか。人は誰一人として全く同じ人はいない。その人をその人としてきちんと捉え、丁寧にその言葉に含まれた意味合いをつかんでいかなければならない。『観察する』においては、言葉には表れない思いがその人の態度や行動、表情に含まれることもあるため、聴くことばかりではなく観察することも重要だ。また、中には言葉で自分の気持ちを表現することが苦手な人であれば、表情等で思いを教えてもらうこともある。『伝える』においては、ただ一方的に相手の話を聴くだけではなく、適切にこちらの考えを提示しながら、相手との意見をすり合わせる作業となる。ただし、こちらの意見ばかりを伝えるというわけではなく、聴く・観察するから得た情報が相手の思いと一致しているか確認するために、「それはこういうことですか?」と質問を有効に使っていくことが重要だ。質問を適度におこなうことで、思い違いがあれば訂正してくれるし、合っていれば相手に「きちんと伝わっている」という安心感から信頼関係の構築にもつながっていくのである。とはいえ、時に「なんかやりにくいな…」と感じることはないだろうか。例えば、相手が不機嫌で文句ばかり言う、「わかりました」と返事をしたにも関わらず言ったことと違うことをする等がある。お互いが気持ちよく対話ができたり、意見のすり合わせができたりする、というのが理想ではあるが、そうもいかない現実もある。そういった時は、相手の背景を想像することや、自分の価値観を主軸にしていないかを振り返ってみると良い。例えば、面談の時に不愛想な様子で目の前に座られたり、言葉の端々がちょっと感じ悪いなと感じたりする場面はないだろうか。そのように感じることは構わないとしても、それだけで終わらせるのではなく、「この面談に入る前、長時間待たされたのかもしれない」等と想像を巡らせてみることが必要だ。柔軟な想像力や視点を持つことによって、「そういう気持ちを持っているんだな」と心の余裕につなげることができる。

 ここまで対話についての話が続いたが、岡崎氏より、「対話と会話の違いって何だと思いますか?」という問いかけがあった。岡崎氏の思う『会話』とは、相手の価値観に立ち入らない友好的なコミュニケーションである。対して、『対話』とは、互いの考えや思いが違ってもそれを否定するのではなく、「相手はこう考えているんだ」という理解しようとする姿勢でかかわり、互いの考え方をすり合わせるコミュニケーションである。私たちは、会話と対話の違いをしっかりと認識した上で、対話によるかかわりを大切にしたいものである。

 ここで、「対話について話してみよう!」というテーマでグループワークを実施し、ここまでの講話で感じたことや日頃の業務における対話について聞いてみたいこと等をグループ内で共有した。グループワーク後は、事例を用いて対話についての考えを更に深めた。(事例の内容に関しては、会員のみ閲覧できます。)

 最後に『対話力』について講話があった。対話力とは、対話を使って支援をすすめていく力を指す。聴く→理解する→話す・伝える→理解してもらう→聴く…という循環を繰り返すことで、一方的ではないやりとりとなり、相互理解となる。また、その循環を通して生まれるアイデアや方向性の共有をおこなうことにつながっていく。これらの循環についてもう少し詳しく要点を押さえていこう。まず『聴く』において、注意しなければならない点として、ただ相手の話を聴いてそのままにするのではないということだ。例えば「その考えは賛同できないな」と思うことがあったとして、その気持ちをなかったことにするのではなく、「賛同できない」と思った自分の気持ちに気づき、賛同はできなくてもなぜ相手がそのような考えに至ったのかという想像を巡らせることが相手への理解につながる。そして、傾聴とは違って、聴いたことを次の『理解する』『話す・伝える』に展開していくために『聴く』のである。『理解する』においては、前半でも講話のあった通り、適度な質問を活用しながら、相手の中にあるものを引き出して言語化し、確認をしていく。『話す・伝える』においては、『理解する』にも近い部分ではあるが、批判ではなく質問により対話を深めていく段階である。分からないことや小さな違和感に対して、遠慮してそのままにしてしまうと、相手との対話や、ひいてはその後のかかわりがうまくいかなくなったりもする。『理解してもらう』においては、こちらが相手のことを理解するばかりではなく、相手にもこちらの考えを理解してもらい、先の支援につなげていくものである。

 ここまでの講話を通して、2回目のグループワークをおこなった。「自分の考える対話力とは?」をテーマに、それぞれのグループで対話力について、活発な意見交換の場となった。

最後のまとめでは、岡崎氏から「日々の業務の中でのクライエントとの対話も重要ですが、その中で困ったことや感じたことを、自分の中にため込まず、共感し合える仲間とぜひ対話してください」とアドバイスがあった。冒頭でも、所属機関・関係機関との対話も大切にしなければならないというのはここにつながってくる。支援に行き詰った時、対話による考えの言語化は、頭の整理にもつながるのである。そして、「1回で全てを解決しようと思わなくていい」と私たちの背中を押してくれた岡崎氏の言葉がある。私たちのかかわりは1回に留まらないからこその言葉だ。対話は双方のやりとりで成立し、よりよい支援のために深めていくにあたって必要なものである。今回の研修を通して、日頃無意識におこなっている部分の見直しにつなげていきたい。

 

報告  松下 瑞季(地域活動支援センター クリマ)