1月定例研修会報告

 

【日  時】  2021115日(金) 19:0021:00

【テ ー マ】     課題別研修Ⅱ 『ソーシャルワークとしての年金請求支援』

【講  師】  筒井 佳代理 氏(坂出メンタルクリニック)

【参加者数】  25

 

 

●研修報告

 『年金請求』『年金申請』と聞いて、皆さんはどのような印象を持ちますか?「難しそう」「ややこしそう」…そんな印象を持つ人も多いのではないだろうか。今回の課題別研修では、坂出メンタルクリニック 筒井 佳代理氏を講師にお招きし、筒井氏が実際に障害年金請求に携わった中での『ソーシャルワークとしての障害年金請求』をテーマにお話しいただいた。筒井氏自身、所属機関に先輩PSWがいないという環境のもと、これまで障害年金請求に携わってきたとのことで、「同じように先輩PSWがいないという人のヒントになれば嬉しいです」との言葉から、本研修が始まった。(※今回の研修では、講師 筒井氏が『PSW』と表記しているため、『PSW』表記にて報告します。)

初めに、障害年金についての説明があった。障害年金とは、生活のしづらさへの経済的保障であり、生きるために必要な経済的基盤を整える役割を持っている。そのことから、障害年金はクライエントにとって生活そのものに直結する、重大な手続きとなっている。我々PSWは、クライエントが生活しやすく、生きやすく、そして人として自分らしく暮らしていくために、クライエントとかかわっていく存在だと言える。年金請求を通し、クライエントが何を求めているか、どう生きたいのかを共に考え、生活そのものを支援していくことが必要である。ここで、「年金を申請したい」というクライエントからの申し出に、ただ事務的な手続きをするのではなく、『かかわりのきっかけ』と捉える視点が鍵となってくる。そして、「年金を申請したい」という相談を受けた場合、誰からの相談なのかということも重要だ。クライエント本人からの相談であった場合、「申請しよう」と思った理由があるはず。それはただ金銭的に困っているだけではなく、例えば「親亡き後が心配」といった家族支援につながるような困りごとが潜んでいることもままある。ニーズを丁寧に掬い上げることで、年金以外に必要な支援やサービスにつなげていくきっかけにもなっていくこともある。また、クライエント本人ではなく、家族、医師、支援者、生活保護ケースワーカー等、様々なところからの相談も多い。この場合には、クライエント本人の意思を確認する必要がある。家族からの相談である場合には、家族の気持ちにも耳を傾け、寄り添う必要もある。場合によっては、障害年金に対する誤解や偏見が生じていることもあるため、『説得』ではなく、クライエント本人・家族共に『理解し合える』ように、我々PSWがきちんと障害年金を説明できることが求められる。さて、私たちは障害年金について尋ねられた時、正しく説明できるだろうか。障害年金は、前述の通り、生活のしづらさへの経済的保障であり、受給は権利であること。請求手続きが必要で、納付要件があること。障害の程度によって受給可否が決まり、級によって受給額が異なること。病状の変化で級の変化もあり、受給できなくなることもあること。受給しても働けること。受給停止手続をおこなえば、途中で受給をやめることができること等々。意外と、クライエント自身が「そんなの知らなかった」ということもある。我々PSWは、正しく、丁寧に、そして分かりやすく伝えていきたいものである。

続いて、年金申請の具体的な流れと注意点について、事例を交えながら説明があった。まず、障害年金を受給することは、クライエントが自身の病気を認めていることから始まる。「クライエントは自身の病名を知っているか」「どういう風に思っているか」等、まずはクライエントの思いを聴き、迷いや葛藤を理解し、クライエントの気持ちに寄り添うことが大切である。ここで筒井氏から、年金申請を通して生活のしづらさが、「病気や障がいによるものだ」とクライエント本人が認めることができたケースの紹介があった。丁寧な説明や、クライエントへの聴き取りをおこなうことで、生活のしづらさや働きづらさ等が病気のせいなのだと知り、自分らしく生きるための年金受給につなげることができたという。年金請求には、治療歴の確認や治療歴メモの作成をする必要がある。ここでも、かかわりが重要だ。治療歴を書き出すために、本人の記憶をたどったり、家族から聴き取ったり、診療録や紹介状の確認をおこなう。それでも分からない場合には、これまで受診した病院への問い合わせをおこなうが、できるだけクライエント自身に問い合わせてもらうのがポイントとのこと。それは、個人情報の問題もあるが、請求の中でクライエント自身に取り組んでもらうことで『自分の年金を請求している』という自覚を持ってもらい、請求後の達成感と自信の獲得につなげる意味も持つ。もちろん、クライエントだけでは難しいところは、PSWが一緒に考え、手助けをしていく。そして、苦労を共有する。こういったクライエント主体の支援をおこなっていく。また、診断書作成の場面においても、PSWの役割は重要である。診断書を作成するのは医師だが、医師がクライエントと会う診察の場だけでは、生活状況を把握することは難しい。病状が落ち着いているからといって、問題なく生活できているとは言えない場合もある。そこでPSWがクライエントの生活状況を確認し、生活のしづらさを伝えることが必要である。続いて、病歴・就労状況等申立書の作成においては、治療歴メモの作成と同じく、クライエントに作成をしてもらうよう援助する。この申立書では、クライエント自身がどんな苦労をしているのか、どんなことで困っているかを自分で伝えることのできるツールでもある。申立書の作成は、クライエントの歩んできた過去を振り返る機会であり、いわばその人の人生に触れさせてもらう機会だ。その結果として、信頼関係の構築につながっていく。そして、障害年金の申請が完了すればそれで終わりという訳ではなく、まず障害年金を受給するにあたって、誰が管理するのか、年金の用途は何なのか等を明確にする必要がある。これは金銭的自立の第一歩であり、クライエント自身が管理し、用途を考えて使えるような支援として、共に考えていくことが必要である。そして、将来どのように生活していきたいのか、想像し、共有しながら、本人の望む生活の実現につなげていく。受給に際して『金銭管理』を誰かに依頼する等と考えてしまいがちだが、障害年金はクライエント自身の望む生活を実現するためのものだからこそ、金銭管理の必要性があるのかどうかもきちんと確認することも必要だ。

最後に、筒井氏は年金請求におけるソーシャルワークについてまとめられた。①年金請求にかかわる家族・医師・年金請求窓口・他医療機関等の人たちとの『関係調整』。②年金請求にあたってのクライエントの思いの傾聴や、苦しみ・葛藤の理解をする『クライエントの障害受容支援』。③クライエントの人生の振り返りや現在の困りごとを考える『アセスメント』。④書類作成等のクライエントとの共同作業による『信頼関係の構築』。⑤クライエントの主体性を重んじた『権利擁護』や『エンパワメント』。これらの過程とかかわりは、我々PSWが日々大事にしているソーシャルワークに結びつくものである。

講義の後は、参加者との意見交換・質疑応答をおこなった。実際に医療機関で年金請求支援をおこなっているという参加者からは、「実際に年金を受給できるようになってからのかかわりで、金銭の使い方や今後の生活について話すことの難しさを感じる」「クライエント本人と家族の障害年金に対する意識の違いを感じることもある」という意見が寄せられた。また、医療機関以外の福祉機関所属の参加者からは、「地域でクライエントの生活の場に入っている支援者は、生活状況を良く知っている。医療機関への情報提供として連携・協力をしながら、その人が望む生活の実現の手助けになれたらいいと思った」「障害年金の受給が決定してすぐに金銭管理をつけるということには違和感があった。お金をどう使いたいのかを一緒に考えることもソーシャルワークのひとつ」等の意見が寄せられた。

 

冒頭に、『年金請求』『年金申請』と聞いて、皆さんはどのような印象を持ちますか?と問いかけたが、筒井氏は、「最低限の知識さえあれば、何とかなる!」と苦手意識や不安を抱える私たちの背中を押す。この言葉には、「わからないことがあっても、窓口に聞いたり、自分で調べてみたり、PSW仲間に聴いたりと、方法はたくさんあるから安心して」という筒井氏の優しさが滲んでいる。その言葉の通り、私たちは関係機関や仲間とのつながりを持ち、大切にしていれば、クライエントやその家族に、希望する生活の実現につなげていけるのではないだろうか。そして、年金請求支援は、年金を受給させるための仕事ではなく、重視すべきは『クライエントとのかかわり』であることを忘れてはならない。

報告  松下 瑞季(地域活動支援センター クリマ)