課題別研修会Ⅰ報告

 

【日時】202299() 19302130

【テーマ】「精神医療国家賠償請求訴訟を通して考える~明日から私たちにできること~」

【参加者数】18

 

●研修報告

 最初に、精神医療国家賠償請求に尽力されている日本社会事業大学 専門職大学院の古屋龍太先生の「精神保健福祉士して社会的入院を考える~精神医療国家賠償訴訟について問う~」の講演会を視聴した。1950年精神衛生法から72年間強制入院制度のベースは、変わらず社会的入院がこの日本で継続されている。日本の精神医療は、治療のためではなく、精神障害者を社会から隔離・施設収容を目的とする社会防衛思想に基づき、精神病院拡大・増床していった。また国は、精神障害の介護を要する家庭は生産阻害・経済的損失が出るため、施設に収容する必要があるとして精神障害者を施設に収容させ、国の経済を優先してきた背景がある。入院形態の変化としても、1988年は任意入院28%、医療保護入院63%。1997年は任意入院67%、医療保護入院29%。2019年は任意入院52.3%、医療保護入院47%である。現在も様々な要因があるがスーパー救急や急性期病棟の増加に従い、非自発的強制入院と隔離・身体拘束が増加しており、診療報酬上の経済的誘導が大きい状況である。つまり、社会的入院とは、長期入院を指すのではなく、入院による治療の必要がないにもかかわらず、様々な社会的要因によって入院をしている「不当な入退院」と指す。ミクロの視点では患者や疲弊した非力な家族、施設化した病院等の要因がありつつも、マクロの視点では、不作為の制度や国家の要因もあると言える。 

 その後、グループワークをおこない、2つのテーマについて意見交換をした。

グループワーク①では、「本人の意に反した強制入院がない社会=共に生きていく社会ってどんな社会?」をテーマに話し合った。強制入院を減らそうとしても、スーパー救急の場合、年間6割が非自発入院(任意入院ではない)でなければならない等の診療報酬の体制がある事や香川県は長期入院全国でベスト5に入っている事等、日本の政治に疑問を感じる意見や香川県の現状に葛藤を抱く意見が出た。ほかに、強制入院をしなくても日々の支援の中で、自分の意志が尊重されない、自己決定をしない生活は果たして本人の意に反した強制入院と違いはあるのかと日々の支援で本人の自己決定を尊重しながらかかわれているか問う意見も出た。そして退院後、地域生活をコーディネートする相談員や社会資源が少ない為、入院に頼らざるを得ないのではないか等の意見も出た。

 グループワーク②では、「本人の意に反した強制入院がない社会にするために、具体的に実際に、MHSWとして明日から出来ることは何か?」をテーマに話し合った。本人の調子が悪く混乱した状況であっても、日頃からお互いの意見が言い合える関係であればそういった状況でも対話が出来る為、日々のかかわりが重要であるとの意見が出た。また、グループワーク①で地域資源が無いとの意見が出たが、地域資源の開拓はMHSWの役割ではないか、アウトリーチ支援に対して報酬化して欲しい等の意見も出た。ほかに、日本は障害を抱える人等、自分達の知らない事や人々に対し排他的であり、理解が少ない。MHSWが精神障害についての啓発をしていく必要があるのではないか。民生委員等への啓発もすれば、より地域住民への理解が強まるのではないかとの意見が出た。

今回の研修で、共に生きていく社会とはそれぞれどういった社会なのか考えるきっかけとなり、それぞれのグループで明日からMHSWとして出来る事を共有した。今後は、それらを行動に移せるようなかかわりやソーシャルアクションを行っていきたい。

※古屋龍太先生の「精神保健福祉士して社会的入院を考える~精神医療国家賠償訴訟について問う~」の講演会の詳細は、20226月に発行したうどん県MHSW通信(第47号)にも掲載しているので、ぜひご覧ください。

 

                  (だんしエコ作業所 濱田彩香)

 

 

●感想 

 今回の研修テーマは、強制入院のない社会のために明日から何ができるか、と自分に問うものでした。

日本の法制度によって40年という人生の大半を精神科病院の中で過ごした原告伊藤さんの訴えは、「実際にそういう人を知っている」私たち精神保健福祉士にとって、改めて胸に迫るものがありました。精神障害者の社会的復権をめざし社会的入院の解消を目的として作られた国家資格である精神保健福祉士にとって、「ど真ん中」のはずのテーマですが、それゆえに実際はなかなか向き合えないテーマでもあったように思います。

「どこかで仕方がないと思っていませんか?」「どちらを向いて仕事をしていますか?」という古屋さんの問いに応えるようにグループワークの中で話されたことは、強制入院の場に居合わせたとき自分はどうするのか?という具体的なものでした。孤独にさせないためにその場で何ができるのか、説得ではなく本人が納得するためのサポートはどのようなものか、入院させないための砦にもなりうるはず、そのために日頃からできることは何なのか、それぞれに実践を振り返りできることを探しました。

「知ること」や「考えること」はできても、「行動に移すこと」はもう一つも二つも労力と時には勇気がいり、私自身「考える」までで止まっていることが多々あります。「行動しない言い訳」は無限にあり、そのどれもが正当な言い訳に聞こえます。自分はこの仕事に就いて本当は何をしたかったのかという問いが、うどん県MHSW通信(第47号)巻頭言で会長が紹介した「ウパニシャッド」でいう「深い願望」まで届かなければ行動には繋がらず、国賠訴訟からの問いはそこまで届いたという気がします。良い研修でした。

 

(竜雲メンタルクリニック 山下紀子)