12月定例研修会報告

 

【日  時】  2023128日(金)、1222日(金)19:3021:00

【テ ー マ】   精神保健福祉士としてのかかわりを再考する

        ~「社会的ひきこもり」の支援から~

【講  師】  香川県健康福祉部障害福祉課 精神保健・人材育成グループ 大島 理子氏

        ペアレントメンターかがわ ひきこもりサポーター 秋山 輝美氏

【参加者数】  12

 

●研修報告

 精神保健福祉士は、「社会的ひきこもり」が社会問題になる以前より、ひきこもり状態にある方とのかかわりを続けてきた。近年、社会的ひきこもりとされる人の数は年々増えてはいるものの、私たちが業務の中で実際社会的ひきこもりの人とのかかわりはごく一部だと思われる。家族など、困っている人はまだまだたくさんいると推測され、私たちの今後のかかわりにも課題や葛藤を感じずにはいられない。今回は、2部構成での研修をおこない、1回目は、講師をお招きして、社会的ひきこもりの現状やアプローチに関しての講話、2回目は、演習グループワークをおこない、講話で感じたことや精神保健福祉士としての今後のかかわりについて考える機会とした。

 

 1回目の講話を中心とした研修会では、前半に香川県健康福祉部障害福祉課 精神保健・人材グループより大島 理子氏による、『香川県における「ひきこもり」の現状と支援の課題』をテーマにお話しいただいた。

「ひきこもり」の定義は、様々な要因の結果として社会的参加(就学・就労・家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6か月以上に渡って概ね家庭に留まり続けている状態を指す現象概念である。また、この定義には、例えば夜にコンビニには行ける、自分の興味のあること以外は外出しない状態もひきこもりに該当するという意味も込められている。このひきこもりについて内閣府で2022年に実態調査をおこなったところ、過去の調査時では115.4万人であった数から146万人まで増加している。また、ひきこもりは男性が多いと言われていたが、最新の情報においては女性が52%増加しているとのことだ。今やひきこもりは50人に1人だと言える。ただし、ひきこもりは社会情勢の影響を受けると考えられ、頭に思い浮かぶのは2020年に発生した新型コロナウイルスだろう。コロナの影響で退職を余儀なくされたことや、緊急事態宣言等による不要不急の外出を制限されたことが要因となっている。これは、実態調査において、5人に1人がコロナの影響を理由に挙げているとのことである。内閣府はこの結果を受けて、各県・各市町村での実態調査やプラットフォームの設置等のひきこもり支援についての施策を打ち出している。

では、香川県ではどのようにひきこもり支援に取り組んでいるのか。2018年度の香川県での実態調査の結果としては、県内726人(人口当たり0.07%)がひきこもり状態にあるとの結果が出ている。しかし、調査における「ひきこもりの状態は?」という質問に対して「わからない」という回答が多くあったことや、ひきこもりという認識にない場合もあるので、この数字が全てではなく、まだひきこもりとして地域に埋もれているケースもあるのではないだろうか。そして、香川県の調査結果で特筆すべきは、不登校からひきこもりとなったケースが、全国では10%と言われていたが、香川県では20%という結果になったことだ。しかし、不登校経験者のすべてがひきこもりになるわけではないため、今後国や県も関連性等調査していくことになるだろう。

実態調査の結果ののち、香川県におけるひきこもり支援の取り組みについて紹介があった。まず、保健所では①相談業務(電話・来所)、②当事者や家族への支援・訪問・家族教室の実施、③人材育成・普及啓発活動をおこなっている。また、香川県精神保健福祉センター内に設置している香川県ひきこもり地域支援センター「アンダンテ」では、①個別相談、②グループ活動、③研修会・普及啓発活動・ひきこもりサポーター登録名簿管理等をおこなっている。アンダンテによる個別相談は、電話や来所だけではなく、メール相談もできるという。ひきこもりサポーターは県でサポーターを育成しているとのこと。

他、ひきこもり当事者や家族向けの居場所として、2020年度よりさぬきポレポレ農園(東讃)、のんびりやろうかい(中讃)、支援センターウィズ(西讃)が交流・体験の場や社会参加のきっかけになる機会の提供をおこなっている。実際3年間居場所利用をした当事者からは、「支援者とつながることができてよかった」「自分の気持ちを理解してくれる人がいてよかった」という声の反面、「現地まで行くのが大変」「交通費がない」等の声も上がったという。

また、先述の3か所に加え、新たにオンラインスペース「ヒトトキ」という取り組みも始まっている。(※ヒトトキは就労移行支援事業所ヒトトコに県が委託している事業である。)ヒトトキは、電子媒体を活用したもので、利用者は自身のアバターを使いバーチャル空間内でただうろうろするだけでもいいし、話したい時には他のアバターに話しかけたりミーティングルームのようなところに入って話したりすることもできる、自由な空間とのこと。Zoom等のオンラインミーティングツールでは、「話さなければならない」という圧迫感があるが、ヒトトキのようにバーチャル空間であれば、自由度が高いというメリットがある。

そして、香川県では2014年度よりひきこもりサポーターを養成しており、ひきこもりに悩む当事者や家族に身近に支援ができるように取り組んでいる。ひきこもりサポーター活用推進事業は、高松市、三豊市、まんのう町は独自で事業をしているので、その3市町在住の当事者・家族への支援については市町に問い合わせることをお勧めする。

最後に、保護者対象のペアレントプログラムとして、ペアレントメンターかがわのことも紹介された。ペアレントメンターかがわは、対象を①18歳未満の子を持つ親、②1839歳の子を持つ親とし、年齢や特性に応じた対応方法を学ぶプログラムを提供している。

 

後半は、先述のペアレントメンターかがわよりひきこもりサポーターの秋山 輝美氏による「ひきこもりサポーターとして 親へのアプローチ」をテーマに、実際のかかわりについて事例も交えながら、支援やアプローチのポイントについてご紹介いただいた。

秋山氏は、ひきこもりや不登校等は本人にとってもわからないことが多いので、親は「なんで学校行かないの?」等の叱責等はせずに、見守ることが大事だと話す。もし、親に無理を言ったり感情の起伏が激しかったりする場合には、今まで我慢してきた感情を出しているので受け止めることも大事とのこと。無理を言う等の行動は、『トラウマ返し』と呼ばれ、親の気持ちを確かめる行為なのだという。この行動を起こし、子ども自身が安心をしたら回復に向かっていくそうだ。親子関係が修復されることで少しずつ外出ができるようになり、進学や就職等を前向きに考え、行動できるようになっていく。ただし、親子だけで解決できないこともあるので、そこはペアレントメンターかがわや、ひきこもりサポーター等、支援の手を借りることが本人や家族にとって大きな助けになるかもしれない。

秋山氏は「子どものトラウマの別れ道」についてひきこもりの啓発漫画を用いて紹介した。子どもにとって辛いことや悲しいこと等のトラウマ体験が起きた時、①親等の養育者が受け止めた場合と、②放置・否定等で受け止めなかった場合の2パターンが生じる。①の場合、養育者が「辛かったんだね、もう大丈夫」と受け止めると、子どもは自分自身が「今、私は辛いんだ。でも、私はひとりじゃないんだ」と認識し、受け止めてもらえたことで安心感を得ることができ、ストレス反応が解除され、辛い記憶は過去となる。②の場合、子ども自身が「私はダメなんだ」「私のことはどうでもいいんだ」と感じ、安心感を得られず、ストレス反応が残り、自律神経も発達しない。結果、トラウマが残り続ける。受け止められない状況が繰り返されることで、ひきこもりになったり、ひきこもり続けることになる。しかし、途中ででも①のように、受け止める気持ちや行動を起こすことで、回復につながっていくという。

子どもにとって、親は「生理的欲求を整える存在」という環境要因である。秋山氏は、ひきこもりの子の親は、ちょっとした悲しみや辛いことを受け止められなかったことを発端にして、のちの子の心の不安定につながっていったのではないかと考えている。ペアレントメンターかがわに来る親の相談の中で、「虐待等、子どもに対してつらく当たったことはない」とよく聞くそうだが、子どもにとっては、「聞いてくれる安心」が何より大切なのではないか。子どもにとって一番身近にいる親が、子どもに絶えず好ましくない行動や思いを抱えていると、子どもの生理的欲求がいつまでも満たされないとまとめられた。

 

2回目の研修では、演習グループワークをおこなった。1回目に聴いた講話の内容も振り返りつつ、各グループで、講演を聞いて気付いたこと、ひきこもり支援の中で難しいと感じる点となぜそう感じるのか、どんなかかわりの工夫をすれば難しさは緩和されるのか、明日からできること等をテーマに、参加者で考えを深めた。現在進行形、あるいは過去にかかわったケース等も各々例に挙げながら、私たち精神保健福祉士としてできること、やりたいこと等を言語化し、考える機会となった。

 

 

報告  松下 瑞季

 

 

●参加者からの声(研修会のアンケートより抜粋しています。感想文は原文ママで使用させていただきました。)

・「ひきこもり」とされる本人が困っていない場合が恐らく大半で、そこに MHSW としてできることは何かを考える機会になりました。家族などの本人を取り囲む関係者は「このままではダメだ」と焦る気持ちも理解できますが、その焦りに飲まれて一緒に「外に出よう」とアプローチするだけが支援ではなく、本人が何を希望しているのか等、かかわったその時の本人の思いを引き出すことが大事ではないかと思いました。

・本人がつながっているどんな細い糸も大切にする、ということ。グループワークがすごく良かったです。話しやすかったし、色んな話も聴くことができた。

・日頃外来受診されている方が、ひきこもり状態(外来ニート)の方なのではないか、という視点をもち捉え直すことを意識したい。 折角医療に繋がっているのだから、まずはここから声かけしていくことから始めたいと感じました。 「ひきこもり」という表現は使い始めても良いタイミングかどうか?本人さんが今の状態をどう認識されているのか?かなり難しい問題だと感じました。 「ひきこもり」という社会が持つマイナスイメージに置かれてしまった人たちの苦しみにも、私たちは一緒に寄り添う必要がある。だれでも、いつでもなり得る状況だから、まずは私たちから理解者になりたい。

 

・家族は、ご本人にとって、障害にも協力者にもなりうるという、秋山さんの話はインパクトがありました。ひきこもり支援は、私たち自身のソーシャルワークが試される支援かも知れない。かかわりを続ける中で、自分の足りない部分を広げていくつもりで伴走できたら良いのではと思います。

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